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松下電器産業が社名を「パナソニック」に変更:マスターブランド戦略のトレンド [その他]

企業ブランド戦略は効果が高い! 田中中央MBA教授コラムより抜粋
http://event.media.yahoo.co.jp/nikkeibp/20081028-00000000-nkbp-bus_all.html?p=1

「一点集約型」の企業ブランド化は世界的な傾向 21世紀のグローバル企業においてはひとつの強力なマスターブランドを中核に据えて、そこに企業価値を集約して活動するブランド戦略が主流になりつつある。今回の松下電器産業からパナソニックへの社名変更は、まさにこの戦略に沿ったものだ。大きく言えばここ10年くらいのスパンで起きている世界的な企業ブランド化への流れにある動きだと言える。

 この例は枚挙にいとまがない。花王はエコナ(食用油)やビオレ・ニベア(洗顔料)など、多くのブランドを擁しているが、いずれも「花王」の企業ブランドを保証マークとして機能させている。ネスレも同様に強い個別ブランドをいくつも持っているものの、同時にネスレという企業ブランドの効果を活かしたマーケティングを行なっている。

 また資生堂はかつてマルチブランド戦略を志向していたが、現在では資生堂ブランドを核とした企業ブランド中心の戦略に転じつつある。フォード自動車などはかつてボルボやジャガーのような個別ブランドをいくつも「コレクション」したが、ブランド価値を高めるのに失敗して、いくつかのブランドは売却してしまった。「一点集約型」の企業ブランド化は世界的な傾向なのだ。

 近年のアメリカの実証研究(※)でも、企業ブランド戦略・個別ブランド戦略・ミックスブランド戦略の三種類を比較して、企業ブランド戦略を取る企業がもっとも企業価値が高いことが示されている。つまり企業ブランド戦略は企業価値を効率的に高めるために必要な戦略なのである。

というと、こんな反論があるかもしれない。「P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)はどうなんだ?」と。確かにP&Gは、マックス・ファクターやヴィダルサスーンなど、売上高で10億ドルを超える有力な個別ブランドを22も抱えた典型的なマルチブランド企業だ。そしてP&Gという社名がマーケティング活動のうえで強調されることはほとんどない。

 しかしこれは「P&Gがむしろ例外的なのだ」と考えるべきだ。P&Gのようなマルチブランド戦略を取りうる企業は、ブランドマネジメントに卓越したスキルや強靭な体力をもつことが条件になる。そしてP&Gにはそれがあるのだ。マルチブランド戦略を採って成功できる企業は世界を見回してもさほど多くはない。

(※:Rao, V., Agarwal, M.K., & Dahlhoff, D. (2004). How is manifest branding strategy related to the intangible value of a corporation? Journal of Marketing, 68, 126-141. )

「パナソニック」に社名変更して、いったい何を伝えたいのか 松下電器産業がパナソニックへと社名変更したことに対して、1980年代後半にさかんに行なわれたCI(Corporate Identity)を連想する人もいるだろう。しかしかつての日本企業の企業ブランド戦略と、現在の企業ブランド戦略の世界的流れとは区別する必要があると筆者は考える。

 80年代までの日本では三菱や三井のような財閥系ブランドが幅を利かせ、またCIブームで企業ブランドを刷新する動きが目立った。しかし当時の企業ブランド戦略とは、むやみに多角化・膨張化した企業形態の格好を取り繕う目的で実行されることが多く、そこには戦略性が欠けていた。当時CIを行なった企業の大部分は、自社のコンセプトを「生活産業」などとする曖昧なポジションしか取りえなかった。

今日の企業ブランド戦略は、その企業の中核能力・競争力を踏まえ、事業領域を戦略的に集中化した、そのうえに築かれたものである。こうした点が80年代のCIと、現在の企業ブランドとの決定的な違いである。パナソニックのブランド変更には、こうしたかつての企業ブランド戦略とは違って、グローバルプレーヤーを志向する戦略性が感じられる。

 世界的な家庭用品メーカーであるユニリーバは、基本的にはP&Gと同じく個別ブランド戦略の企業である。だが、環境を重視する企業であることを訴求する必要性を感じて企業ブランドを強調するようになった。企業ブランド戦略はコミュニケーションの面から言って効率的であるが、何のために、また何を伝達するために企業ブランド戦略を取るのかをよく考えるべきである。

新生パナソニックにはイノベーションが必要だ 企業ブランドとは「どのような能力(ケーパビリティ)をもった企業であるか」あるいは「顧客に何をしてくれる会社なのか」を明らかにすることを目指すブランド活動である。ひとつの企業ブランドで統一することは、力技を用いれば可能であるのだが、問題はその後の展開にある。

 例えばソニーはエレキのみならず、金融・ゲーム・エンタテイメントなど幅広い事業領域に自社ブランドを適用して活動している。米国ではソニーはエレキのブランドであると同時に、映画のブランドとしても知られるようになった。ソニーブランドはあまりにも広がりすぎ、また活動する地域が広がってしまった。

 こうした課題を解決するためにソニーはサッカーのワールドカップをサポートする活動を始めた。サッカーは数少ない世界共通のスポーツであると同時に、ソニーがこれから活動を広げる世界地域において人気がある。そのうえに、ソニーがもつハードからソフトに至る事業の強みを表現しやすいメディアでもあるのだ。
企業ブランドは事業領域が広がるにつれてその価値の希釈化を招きやすい。その会社は本当は何が得意技なのかが見えにくくなってしまうし、グローバルに見たときの一貫性が欠ける結果になりやすい。ソニーのワールドカップサッカー支援のようなコミュニケーション活動はひとつの解決方法である。

 それ以上にこうした問題を解決するもっとも優れた方法は、そのブランドのポジショニングをよく表すイノベーションを起すことだ。ブランド戦略とは実は一度起きたイノベーションの威力を長期に渡って保存する戦略であると言ってもいい。

 筆者が新生パナソニックに要望したいのは、パナソニックブランドにふさわしいイノベーション製品を開発・発売すること、そしてこれを「シルバーブレット」(秘密の弾丸)としてパナソニックブランドのパワーをいっそう加速することである。



企業を高めるブランド戦略 (講談社現代新書)

企業を高めるブランド戦略 (講談社現代新書)

  • 作者: 田中 洋
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/09
  • メディア: 新書


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